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最高裁判所大法廷 昭和24年(れ)604号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人高橋真三次上告趣意は末尾に添附した別紙書面記載の通りである。

第一点第二点について。

論旨は、主権在民を世界に宣言し、個人は等しく不可侵の基本的人権を享有することを規定した新憲法の下においては、被告人不出頭のまま其の陳述をきかずして判決をすることができる旨を規定した旧刑訴第四〇四条は専制的人権抑圧の規定であって、憲法第一一条同第三一条同第八一条同九八条等の条規に照らし惡法と化し廃法となったものであるから、本件の場合に関する限り適用すべからざるものと主張する。

しかし、旧刑訴第四〇四条は「被告人出頭セサルトキハ更ニ期日ヲ定ムヘシ被告人正当ノ事由ナクシテ其ノ期日ニ出頭セサルトキハ其陳述ヲ聽カスシテ判決ヲ爲スコトヲ得」と規定し正当の理由なくして訴訟の遅延することを防止せんとするにすぎない。そもそも被告人が公判廷に出頭することは、権利であると同時に特別の場合を除いては義務であるから、正当の事由なくして出頭しない被告人は、訴訟上ある種の不利益を受けることは当然であるといわなければならない。從って同条が再度の召喚に応じない被告人に対しては其陳述を聽かないで裁判を爲すことができると言うことを規定し、被告人にその不利益を帰せしめたとしても、それは被告人自ら求めた結果であって、何等人権を抑圧するものではないから所論憲法の各条規に反するところはなく原審において同条を適用したことについては違法はない。論旨はさらに裁判所は被告人の不出頭は正当の事由によるものであるか否かを調査しなければならないと主張するが、出頭することができない理由は、被告人においてこれを疏明すべきもので裁判所は被告人不出頭の事由を調査しなければならないものではない。記録を調べて見るに被告人並びに弁護人は原審が指定した公判期日三回共出頭せず、且つ不出頭の事由を疏明した形跡はない。そして昭和二十三年十二月二日の第四回公判期日に際しては、所論至急電報を以て公判期日の延期を申請したに止り、何等出頭できない理由を疏明していないことは記録上明らかであるから、原審において旧刑訴第四〇四条を適用し、被告人並びに弁護人不出頭のまま審理をとげたことは正当であって所論の如き違法はない。

第三点について。

按ずるに如何なる被告事件を所謂必要的弁護事件となすべきかは専ら刑訴法によって決すべきものであって所論のように憲法第三一条、同第三七条第三項によって定まるものではない。論旨は右憲法の規定により窃盗被告事件は必要的弁護事件となったものであると主張するが何等首肯すべき根拠のない独断にすぎない。從って新刑訴施行以前に行われた本窃盗被告事件の審理において弁護人の立会なくして審理したとしても所論のような違法はなく、論旨は理由がない。

よって旧刑訴第四四六条により主文の通り判決する。

以上は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上 登 裁判官 栗山 茂 裁判官 真野 毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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